洞窟の中は程よく広いのかぶつかることなく進み続けています。私はようやくシルエット程度はわかるようになり、セインくんが隣でチラッと私を確認しながら泳いでいることが把握できました。いや、手を繋いでいるので大丈夫ではありますが優しさも感じます。
「ここら辺でいいかな・・・」とセインくんは呟き、首にかけていたネックレスを自分の上へと投げ、泳がせたのでした。するとどうでしょう。瞬く間に辺り一面が輝きだしたのです。私は突然の光に目を瞑ってしまいましたが、よくよく見てみると光っていたのは洞窟の中に散りばめられた宝石だったのです。ネックレスに付いている宝石と、洞窟にある無数の宝石が共鳴する様に輝いて私達を歓迎しているのではないか、と感じさせられます。
「これ、どうなっているの?」
私はたくさんの宝石を眺めながら言いました。
「宝石って、自分があるべき場所に行くと本当の輝きを取り戻すんだよ。だからネックレスを外したことによって一時的に自由になったこの宝石はまた輝き出す。そして普段ひっそりとここで暮らす宝石達も彼の帰りを待っていたかの様に歓迎するんだ。それが、今起こっているものだよ。」
セインくんは私を見ると微笑みました。私も微笑み返しましたが、どうも返す言葉が見つからない雰囲気に少し心配さえ感じてしまったのです。
しばらくじっと輝く宝石を見続けた私達ですが、そろそろ帰る時間になったようで、セインくんは漂うネックレスを掴むと首に戻したのでした。すると見事に宝石は徐々に輝きを失っていきました。勿論、先程同様に真っ暗になっただけで宝石達は眠りについた様なものですが。
「もうちょっと余韻残して暗くなってもいいと思うのにな~」
少し残念がるようにセインくんは辺りを見回しながら言います。
「確かに、また目が慣れるまで時間がかかりそう・・・」
私は苦笑します。
そうはいっても仕方ありません。私達は大人しく泳いできたところを戻ることにしました。泳いでいる場所は先程となんら変わりありませんが、逆に進んでいるからかまた別のところを泳いでいる気持ちになりました。相変わらず魚はいませんでしたが・・・。
と、ようやく外の光が見えてくる場所に出てくると可愛らしい魚も増え始めます。
「魚がいると安心しちゃいます。」
私は笑いながらそう言うと、彼もまた「ふふっ」と笑うのでした。
海岸に戻って来るとそこはもう、洞窟よりは明るいものの暗くなっておりました。街灯もついていた為、海岸自体は明るく照らされていました。
「さすがにちょっと、海から上がり上がりたてじゃ寒いね・・・。」
セインくんは身体をふるふるとさせ、「潜ってた方が温かい・・・」と呟くとくしゃみをするのでした。
「残念だけど、今日はもう帰らなきゃいけないね。1日付き合ってくれてありがとう!」
「ううん、こちらこそ今日はいろんなもの見せてくれてありがとう。いろんな発見があったわ。」
私達は笑い合いました。出会って1日でとても仲良くなれた気がして嬉しくなったのです。
「じゃあ、また遊びましょう?」
「うん! 絶対。」
セインくんと約束をすると、そのまま手を振って別れたのでした。
今日は昨日と比べたら怒涛には感じませんでしたし、少ない人数でとても充実していたな。と私は街への道をスキップする様に歩いていきました。楽しく歩いていたらすぐにセニシエさんのお屋敷にたどり着きます。流石に夕食の時間なのかいい匂いが漂ってきました。きっとセニシエさん作でしょう。絶対美味しいんだろうな・・・って、私も早く帰って夕食をいただかないとですよね。他の方に迷惑をかけてはいけません。少し駆け足になると、自分の屋敷へと急ぐのでした。
☆★☆
「今日はどこに行ってたんだ・・・?」
イバラさんは食事をしながら聞いてきました。
「今日は海の方へ行ったんです。」
「海・・・? もしかしてセインさん達に会ったのですか?」
ティアさんは海という言葉から連想したのか、セインくんの名前を出しました。その通りだったので私は頷くと、「・・・そうですか。」とまた昨日と同じようにサラダを食べ続けました。
「あの2人は厄介だから気を付けろよ。」
イバラさんは口に付いたものを拭き取りながら言いましたが、そんなに彼らは厄介者なのでしょうか。とても良い人達だと思いましたが・・・。
「イバラ、それはあの方達に失礼に値しますよ。どちらか言えば、面倒です。」
・・・・・・ティアさん、それは一切のフォローになっていません。
私は「ははは・・・」と苦笑いをしてしまいます。
「まぁ、これから関わりがあるだろうから知り合っといて正解だとは思うが・・・。」
「展開が早いので後が怖いですね。」
2人はため息をつくと黙り込んでしまうのでした。・・・私はどうしたら良いのでしょう。とりあえず、これ以上は話さないというオーラが出始めてしまった為、私は目の前にあったエビフライを自分のお皿に乗せると、それをゆっくりと食べ進めたのでした。美味しい。
私はあの後も考え込む2人を見続け、話しかけ辛さにそそくさと食堂を後にしてしまいました。とりあえずシャワーを浴びに行こうと廊下を歩いていると聞き覚えのある声がします。
「えーん! 1日呼んでくれないとさみしー!」
少し先にカルアくんが泣き真似をしながら立っていました。
「ど、どうしたのかしら・・・。」
私は恐る恐る声をかけます。
「どうしたもこうしたもないって、昨日の夜から会ってないんだから寂しくなるに決まっているだろう?」
そう言うとカルアくんは右手に持っていた封筒を私に渡しました。そこにはシェルディくんの宛名が書いてありました。私は一体何なのか気になってその場で開いてみることにします。
『明日新しいワインを開けるんだ! シラユキがアップルパイを焼くみたいだけどせっかくだし一緒にどう?』
どうやらプチパーティの様です。
「また明日も忙しそうだ。ていうかみんな親切だね~関心関心。」
カルアくんはいつの間に後ろにいたのか手紙をのぞき込みながら言ってきました。確かに、出会ったばかりの私に皆さんとても親切です。それよりのぞきは良くないですよ!
「で、行くの?」
「えぇ、勿論。おかげで充実した日々を過ごせるわ。」
ふふっと微笑みながら言います。手紙を封筒にしまうと、スカートのポケットにそれをしまいました。カルアくんは満足そうに私を見ると、またも足早に消えてしまいました。
・・・さて、私は早くシャワーを浴びて明日の為にさっさと寝てしまいましょう。そんな時気が付きます。そういえばお部屋以外の浴室ってどこにあるのかしら・・・。