*管理人*

ぱくお

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カエル林檎

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 食堂に着く頃にはだいぶ目覚めたのか、イバラさんは昨日の様なきつい感じに戻っていました。思えば、イバラさんもティアさんも見た目の印象は『怖い』そのものかもしれません。しかしながら既に彼らの面白い一面を知ってしまった事もあり、『怖い』とは感じません。むしろ可愛ささえ感じてしまいます。

「それにしても、今日はマリアも起こしに来るとはな・・・。」

 席に着くと完全に不覚だったと言わんばかりの表情で、イバラさんは深いため息をついたのでした。

「何か手伝いたいと言っていたので、せっかくですから面白半分で連れて行ったのです。イバラを起こす為に頑張る彼女、本当に面白かったですよ。」

 表情は案の定崩れていませんが、ティアさんは私の方をチラッと見ると含み笑いをしたのです。私は「いじわるすぎます・・・」と下を向いたのでした。

 食事を済ませると、今度こそ何をするかで悩み始めます。どうやらお二人ともやることがあるみたいでしたので、迷惑をかけるわけにはいきません。だからといって昨日出会った彼らの元へ行くのもどうでしょう。それこそ突然押し掛けることになってしまいます。私は双子を呼ぶかも迷いましたが、ここは呼ばない方が適切だと判断しました。カルアくん、モランゴくん、ごめんなさい。

 さて、どこへ行きましょう。街を散策するのも楽しそうですし、お部屋から見える海に行ってみるのも良さそうです。まずは遠い方から行ってみることにしましょう。私は使用人さんに外へ出ることを伝えてお屋敷を出ました。昨日の今日で何か変わるわけではありませんが、庭園の花達は今日も綺麗に咲き誇っています。そういえば、海ってどうやったら行けるのでしょう? 聞くのを忘れて出てきてしまいました。街で聞いてみることにします。

「すみません、お尋ねしたいことがあるのですが・・・」

「おや、可愛らしいお嬢さんじゃないか。どうしたんだい?」

 近くのパン屋さんにいたおばさまに声をかけると、優しく問いかけに答えてくれました。

「私、この街に来たばかりで・・・綺麗な海が見えたので行きたいなぁと思ったのですが、どう行けば良いのか教えていただけませんか?」

 私は素直に聞きました。するとおばさまは、「まぁ、珍しい・・・!」と驚きながらも紙に地図を描いてくれました。どういうことでしょう? 行ってはダメというわけでもなさそうですし、深くは詮索しないことにします。

「はいよ、持ってお行き。少し遠いけれど、大丈夫かい?」

「えぇ、お気遣いありがとうございます。・・・あと、パンまで頂いてしまってよろしいのでしょうか・・・?」

「いいのよいいのよ! まだ朝だから大丈夫でしょうけど、お腹空いたら食べると良いわ。」

 気さくなおばさまは笑いながら言いました。せっかくのご厚意です。甘えることも時には大事でしょう。私はありがたくパンを手に持っていたバケットにしまうと、お礼をしてパン屋を後にしました。

 

  ☆★☆

 

 しばらく人通りの少ない道を歩き進めると、小さなお屋敷が見えてきました。確か、ここを右に行くと海に繋がっているはずです。おばさまが描いてくださった地図、とてもわかりやすくて助かります。と、右に足を向けたその時、「海に行って何するんですか?」という青年の声が聞こえてきました。その声の主はどこから聞こえてくるのか、探す事をしなくてもわかります。そのお屋敷の庭で洗濯をしている人です。

「綺麗な海を見に・・・もしかしてやっぱり行ってはダメなのですか?」

 私はその人へ向けて聞きます。

「やっぱり? いいえ、ダメというわけではないです。ただ・・・」

「ただ・・・?」

 青年は、「この先どう言えばいいのか・・・」と腕を組み考え込みます。私は急いでいない為、青年が口を開くまでをじっと待つことにしました。

「・・・・・・そうですね、ひとつ言うなら少年がいます。」

「はぁ・・・」

 私はなんだ、そんなことか。という気持ちになりました。もっと危険な生き物でもいるのかと・・・。いや、それだと先程のおばさまもきっと私を止めるでしょう。

「行けばそれが何なのかわかりますよ。貴女、何も危害加えなさそうですし。・・・あぁ、それと名乗り忘れていました。俺はセニシエと言います。ここで雑用係をやっています。」

 セニシエと名乗る彼は丁寧にお辞儀をすると、思い出したかのように洗濯の続きをやり始めました。私が名乗ろうとしたちょうどのタイミングで、呼び鈴が鳴りました。

「あぁ、クソ・・・・・・仕方ないですね。すみません。また後でお会いしましょう。」

 セニシエさんは申し訳なさそうに去っていきました。まだ洗濯も全部終わったわけでもなさそうなのに、大変そうです。その姿はまるでシンデレラの様。頑張って。という気持ちを残し、私もお辞儀をして一旦お屋敷を後にしました。

 

 

 海への道を歩くこと数分のところで浜辺が見えてきました。部屋から見て綺麗だと思いましたが、近くだと更に綺麗です。私は靴と靴下を脱ぎ、裸足で海岸を駆けると海水に足を付けました。ひんやりとしましたが、やっぱり気持ちがいい。小さなカニ達は姿を現したり、水に隠れたり、見ていて飽きません。そういえばここからイバラさん達のお屋敷はどんな風に見えるのでしょうか? 私はそちらの方角へと目をやりました。

「あ、あった・・・! すごく小さく見える!」

 少しテンションが高くなってしまいました。誰かに見られでもしたら、それこそ不審者です。とりあえず、自分の部屋を探してみます。・・・あそこら辺でしょうか。ここから見た景色もなかなか面白く感じます。写真に収められれば一番ですが、今回は何も持ち合わせていません。仕方がない事なので、また来た時の楽しみにしましょう。それにしても綺麗な海です。見る限り透き通った青。割と遠くの砂と魚まで見えます。と、ずっと海を眺めていると、海の底から人影が現れます。午前中から海水浴でしょうか? 少し考えましたが、この世界の季節は今・・・

「夏だったっけ・・・。」

 とてつもなく暑いわけでも、物凄く寒いわけでもありません。どちらか言えば、春…秋…、春のような心地よさです。

「何をぼぅっとしているの?」

「えっと、ごめんなさい・・・。あ・・・」

 声をかけてきたのはずぶ濡れの少年でした。布を身にまとっていた為、たった今見た人影が彼なのかを疑います。しかし、今ここにいるのは私と、この少年だけです。どこかの民族衣装のような煌びやかな格好をしていますが、濡れて重たくはないのでしょうか。

「服を着て泳いでいたの・・・?」

「真っ裸で泳ぐわけがないでしょ。・・・って、ここに人が来るなんで珍しいね。」

 少年は不思議がりました。こんな綺麗な海なのに?と、私は違う意味で不思議になります。

「君、僕のこと全然知らないみたいだね。ならちょうどいいや! 僕と遊んでよ!」

「え? 勿論良いけれど・・・。わっ!」

 私の手を取ると、ザバザバと音を立てながら海の方へ駆け出してまた振り向きました。

「あっ僕、セインっていうんだけど、君はなんていうの?」

「私? 私は、マリアよ。」

「ふぅん、マリア・・・マリアか。よろしくね!」

 セインくんはとても楽しそうに言いました。その笑顔に釣られて私も笑顔になりましたが、ちょっと待ってください。

「一体、どこへ・・・?」

 私は恐る恐る聞きました。

「どこって、海の中だけど。」

 予想的中です。しかしどうでしょう。泳ぐには適していない格好をしています。勿論、彼も私も。

「えぇと、泳ぎたいのはやまやまですがこの格好だし・・・、ちょっとどうなのかなと・・・思われます・・・。」

 セインくんは即「大丈夫だよ。」と言いましたが、とても心配です。でもまぁ、良いでしょう。たまにはこういう日もあった方が面白いかもしれません。なんたってもう既におかしなことが沢山ですし、今更どうこうというのは良くないですよね!

「もうヤケです! 行きます!」

 私はセインくんの手をギュッと握りしめると2人で海に潜り込んだのでした。